頚椎捻挫、うつ病、後遺障害なし~自賠責の事前認定で事故とうつ病の治療との因果関係が否定されたが、弁護士が異議申立を行い認定が変更されたケース
うつ病と事故の
因果関係が否定された
因果関係が認められた
最終賠償金額 約230万円
事故状況
自動車に同乗し信号待ちで停止中、後方より走行してきた自動車に追突されました。
受傷内容、症状の推移
事故により、頚椎捻挫の傷害を負い、首の痛みが続きました。
さらに、首の痛みで思うように家事をすることができず、パートも欠勤を続けていたところ勤務先から早く復職するよう求められるなどして、思い悩むようになりました。次第に、不眠、抑うつなどの症状が現れ、心療内科を受診し、うつ病と診断されました。
頚椎捻挫は半年ほどで軽快しましたが、うつ病の症状が続きました。
ご相談の経緯~自賠責の事前認定で因果関係を否定される
相手方保険会社が、うつ病について、自賠責に事前認定の手続(調査を依頼する手続)をしたところ、自賠責は、うつ病と事故の因果関係を否定しました。
相手方保険会社は、自賠責が因果関係を否定していることを理由に、心療内科の治療費は支払えないという対応となりました。
そこで、弁護士に依頼して異議申立をしたいと考え、当事務所にご相談、ご依頼いただきました。
ご家族の保険に弁護士費用特約がついていましたので、特約をご利用いただきました。
当事務所の活動~自賠責への異議申立
私は、心療内科を訪問して医師と面談し、発症の経緯、原因、事故との因果関係、予後などをお尋ねし、お聞きした内容を文書にまとめて署名捺印いただき、医師の意見書として提出させていただくことになりました。
症状の推移を明らかにする証拠として、カルテの写しを入手し提出することとしました。
うつ病は、ご本人は病識がはっきりしないところがあり、周囲の家族の方が状態の変化をよく見ているものです。
そこで、ご家族から詳しくご事情をお聞きし、事故後、どのような様子だったのか、どのようにして状態が悪化していったのか、事故前との違いなどを文章にまとめて署名捺印いただき、陳述書としました。
これらの証拠を揃え、異議申立書を起案して異議申立をしたところ、認定が変更され、うつ病と事故の因果関係が認められました。
自賠責が因果関係を認めたことで、相手方保険会社の対応が変わり、心療内科の治療費も支払っていただけるようになりました。
その後の経緯
うつ病の治療には、どうしても時間がかかります。1~2か月に1回、当事務所で打ち合わせを実施しました。
症状、治療経過をお聞きし、それを保険会社に説明して治療費の支払を継続していただきました。
ご本人は外出するのが大変な状態でしたので、基本的には、ご家族にお越しいただき、お話をお聞きしました。
時間はかかりましたが、依頼者は、少しずつ調子が良くなっていきました。家事ができるようになり、朝も起きられるようになりました。事故から約10か月後には、パートに出るようになりました。
事故から約1年6か月が経った頃には、状態がかなり安定してきて、区切りをつけたいということでもありましたので、交通事故の治療としては終了し、示談交渉に入ることにしました。
示談交渉
入通院慰謝料、家事労働の休業損害などを損害として計上しました。
うつ病は、心理的素因として素因減額の対象となることは避けられません。裁判例を見ても、20~50%という高い割合で素因減額されるのが通常です。保険会社と交渉し、素因減額について30%をベースに交渉を重ね、妥当と思われるところで示談が成立しました。
賠償額は約230万円(※自賠責保険金、治療費を含む。)となりました。
解決のポイント
1 因果関係
事故を契機として精神疾患を発症した場合、事故との因果関係が問題となります。むち打ち症になったからといって、皆がうつ病を発症する訳ではないからです。
この点、主治医の協力も得て異議申立をして、自賠責で因果関係が認められたことで、山を越えることができました。
自賠責が因果関係を否定したままであれば、保険会社は当然に因果関係を否定し、裁判をしても裁判所は因果関係を認定し難く、事件は相当に難航したことでしょう。
2 長期のサポート
精神疾患の場合は、発症から治療の終了までに時間を要します。通常は1年以上は治療が必要で、その間、保険会社との窓口になりながら、長期にわたりサポートしていくことが必要となります。
3 素因減額
素因減額の問題です。心理的素因は素因減額の対象となることは避けられません。多くの裁判例を検討して保険会社と議論し、妥当なところで賠償を受けられたのではないかと思います。